水の優しき大田区

空の広き大田区

母なる大田区と ひとがいう

足元に絡みあう夏草の深慮

こちらに住まって しばらくして気づいたこと

・・・絡み合っている糸がある・・・

・・・見られている 視線が ある・・・

・・・あなた 誰? どこから来た 誰の関係の 誰の紹介で なぜここにいる 誰 ?

風船の糸を握るめざとくて優しい手のこと

ネットワークを組むことがいちばんの目的ですと社会福祉士は言った

目ざといひとの地図は細部まで手書きのしるしで埋め尽くされている

一匹狼はすぐにご飯を与えられ どこかに所属せざるをえない大田区よ

落下傘は暖かく出迎えられて すばやく誰かの陣営に入らされる大田区よ

町内会の封筒にすでに金額もハンコも押してある大田区よ

長生きのかあさんが今日は駅前で見慣れない人を見たと夕食時に報告する大田区よ

大田区というひとつの完結した世界があり

水は優しき 空の広き

美味しい空気が味わえて伸びたい草の夏ざかり

神奈川を見るな

品川を見るな

世田谷を見るな

太平洋を見るな

ただ大田区内だけを見ていなさい

ここであなたを幸せにしたい・・・

草は足首に絡まり

風はほほに忠告をする

たいくつの暇がないほど会合好きでおしゃべり好きな楽しい同業者たち

あそこの施設の内紛でお茶もご飯も弾みます

知り合いの知り合いはもう知り合いで

思惑の風船はぶつかりあって仲よくなって

・・・どうして 仲よくなろうとするのか?

自由な風船はもう 

ひとりぼっちではいられない

これが幸せな定着ということなのか

もう大田区を出られない

「あなたはここで生きここで幸せに過ごしここで認められここで人生を終えるのだ」

出るときは全てを棄てるとき

・・・外の世界に出たいならお母さんを納得させてからにしなさい・・・

・・・ああ、母はわたしが詩曲を書くことを本当に嫌がるか嘲笑したものだった!

もう大田区を出られない

大田区のほかに住む所などないと当たり前のように夫が言う

みんなともだち

みんなきょうだい

みんなかぞく

みんななかよし

優しい仲間に囲まれて ときどき 空を 恋しがる